アオリイカの秘密にせまる―研究期間25年、観察した数3万杯―
ベルソーブックス 041
四六判 210頁
巻頭インタビュー1
○上田幸男氏に聞く「本著の執筆意図」
「研究期間25年。観察個体は3万杯。
その成果をまとめた日本初のアオリイカ本です。でも、
25年前は知名度の低い水産物だったのです」
巻頭インタビュー2
○海野徹也氏に聞く「本著の執筆意図」
「すべての釣り人が興味を示すでしょう。
釣り人視点で、『釣りにつながる学術成果』を厳選して本に整理しました」
第1章アオリイカを知る
1-1 アオリイカへの素朴な疑問
なぜ、イカは殻を脱ぎ捨てたのだろうか?
知性と社会性を持つイカ
漁師さんたちが口をそろえる「最高に美味しい長手」
大きな眼は、魚に似た構造の「カメラ眼」
ご存じだろうか?「アオリイカは3つの心臓を持つ」
活魚流通におけるイカの死因は「墨」にあらず?
教材にされるほどコンパクトにまとまった消化管
1-2 なぜ「アオリイカ」と呼ばれるようになったのか
水イカ、藻イカ,芭蕉イカ…。楽しく、多彩な地方名
生物学的分類は、「軟体動物門頭足綱」
シロイカ型、アカイカ型、クアイカ型に大別される日本産
第2章神秘的な「繁殖行動」にせまる
2-1 親イカと繁殖
性判別。達人はゲソだけで雌雄をみわける
魚の愛の証しは「交配」。アオリイカのそれは「交接」
1年の生涯のうち、6か月という長い産卵期
2-2 求愛行動にせまる
メスとオスの位置関係は、両者の大きさにより変わる
1産卵期中、何度も産卵を繰り返す
人工産卵礁を設置して検証。良い産卵場の条件は4つ
第3章驚異的に成長し、わずか1年で幕を下ろす生涯
3-1 高温好みで低温が苦手な卵と稚イカたち
日々、形が変わる卵嚢
すくすくと育つ赤ちゃんイカ
どうして種苗生産や養殖が行われないのか
高水温で正常にふ化し、「1/3海水」では10時間でイカ全滅
3-2 驚異の成長と寿命の理由にせまる
低水温がもたらす延命という恩恵
イカの成長や寿命を知るには、平衡石の日周輪を読む
とにかく、四季がある日本のアオリイカは大きい
第4章小さな旅人、アオリイカの生死をかけた大回遊
4-1 標識放流からみた若イカの移動
目隠しによって容易に標識装着
「神出鬼没」を検証する
1か月で250km 泳ぐ
4-2 決死の大回遊にせまる
分布海域を予想するには「15〜20℃の潮目」を読む
太平洋側より日本海側でダイナミックに移動する
日本列島を縦断する「大回遊説」
第5章「どん欲、どう猛、気まぐれ」な摂餌生態
5-1 彼らの感覚器と索餌を探る
20℃以下の水温では摂餌頻度,摂餌量ともに低下
音も聴いている
視力は0.63。魚より優れた眼の力
5-2 釣り人、必見!もっとも好む餌を調べる
小魚の群れに腕を拡げ一度に複数匹を拘束
大きな餌より、小さな餌を優先的に捕える
徹底調査。77種の餌の中で何を好むか?
第6章プロの漁師に学ぶ「釣法」と「漁法」
6-1 まずはスタンダードな釣法を理解する
のんびりとアタリを待つ「泳がせ釣り」
経験がものをいう「ヤエン釣り」
急増するエギンガー。人気の「エギング」
6-2 やはり効率的。生態を知りつくした漁師たちの「漁法」
曳き釣りとシャクリ釣り
定置網と狩刺網
釣り人の疑問をストレートに漁師さんにぶつけると
徳島と鹿児島の漁師が語る「よく釣れる条件」
第7章その歴史から選び方まで。「エギ」を科学的に分析する
7-1 エギのルーツにせまる
名著、『薩摩烏賊餌木考』とエギの誕生
古代餌木から近代エギへ
エギのモデルは何なのか? 魚、それともエビか?
シャクリ運動の考案者に敬意を表そう!
7-2 従来のエギングを科学的に、そして、
徹底的に分析してみよう
検証。エギ釣りと定置網の獲物はどちらが大きいのか?
エギを選択する本当の理由
色盲の眼。しかし、エギの色を変えることで活性は高まる
第8章やはり美味。アオリイカを食す
8-1 さらに美味しく食すには,どうすればよいか
透明感、甘味,肉厚…。文字通り「イカの王様」
美味しく食すための「シメ」の技
冷やしすぎない。「冷やせば美味しい」と限らない
8-2 アオリイカの流通から調理まで
関東と関西で、まったく異なる流通形態
活イカ輸送の現状と展望
家庭でも簡単に、美味しく食べることができる調理法
第9章環境の変化がアオリイカに与える影響を問う
9-1 アオリイカの好不漁を占う
「親が多ければ子も多い」の関係が成立しない不思議
シーズンの漁獲量は,どのように予測するのか
連動する「米の豊凶」と「アオリイカの好不漁」
9-2 アオリイカのために
大きく変わった遊漁事情
進む「人工産卵礁による繁殖サポート」
日本の四季が,私たちを魅了するアオリイカをつくる
あとがき―「持って帰り!」の一言から、すべてがはじまった
【あとがき】より
「持って帰り!」の一言から、すべてがはじまった。
「もって帰り!」。あの漁協の参事さんの一言がなければ今の私のアオリイカ研究はなかったかもしれない。私とアオリイカの出会いは、県庁に入庁したての頃に遡る。職場の先輩に連れられて、徳島県南部の漁協で漁獲量調査をしていた時、今は亡き漁協の参事さんが「持って帰り!」と水揚げされたばかりの美しいアオリイカを下さった。生まれてこの方こんなに透明感のあるイカを見たことがなかった。「なんて美しく、美味しそうなんだ!」と食べる前から生唾を飲み込んだ。宿舎に持ち帰り、素人なりに刺身にして食べたが、まさに目で見て美味しく、食べて美味しい。これが私とアオリイカの初めての出会いであった。
アオリイカの恵みに感謝し、そして宣伝部長として、本書では「これまで知り得たあおりかのすべてを伝えることができた?」と思いたい。言うまでもなく本書に記した内容は多くの方々に教えていただいたことである。私達のアオリイカ研究では生産から消費まで「アオリイカのことなら何でも知ろう、研究しよう」という姿勢で進めてきた。競りや出荷作業の忙しい時に、快く計測を許していただいた徳島県の漁協の職員さんと漁師さんたち、計測や調査では職場の同僚に援助をいただいた。特に、職場の同僚には、私のわがままを数多く聞いていただいた事を深く感謝している。そして、東南アジアを飛び回ってアオリイカを買い付けている物産会社の方々、築地をはじめ各地の市場関係者の皆さま、イカ加工会社の社長、役員数多くの調理人、釣り人及び釣り具メーカーの職員の皆さまからは、現場やフィールドの興味深い話を数多く聞かせていただいた。これらの方々に対して感謝の気持ちを忘れたことがない。
データのとりまとめも例外ではない。とりまとめを優しく丁寧にご指導いただいたのが東京海洋大学の瀬川進教授と東海正教授、並びに徳島大学の濱野龍夫教授である。瀬川教授は軟体動物の発生や生理がご専門であり、私の水産資源学的な研究に発生学や生理学的な観点からご助言をいただいた。東海享受にはエギのサイズ選択性や資源予測の数値解析を、濱野教授には成長等の数値解析と統計解析をご指導いただいた。
東京海洋大学の東海正教授には、日本水産学会ベルソーブックす委員会の委員長(企画当時)としても、本書のご校閲を承った。また、本書を推薦して下さった同委員会の広島大学生物圏科学研究科の山本民次享受には心より感謝している。さらに、出版に際しては、株式会社成山堂書店の小川典子社長と編集部の方々にお世話になった。株式会社内田老鶴圃 の内田学氏には、『薩摩烏賊餌木考』からの転載を快く許可していただいた。本文で使用したイラストは、広島県呉市在住の加藤志保様のご厚意による。この場をお借りして、感謝の意を表する。
最後に、私は葉までの漁協の職員さんや漁業者との四方山話や立ち話の中で研究のヒントやモチーフ、アイデアを数多くいただいた。昨今、学問は細分化する方向にあり、若い研究者が漁業という現場から遠ざかる傾向にある。水産学を学ぶ若い研究者には、浜でサカナを見つめ、漁業者や仲介業者からどん欲に話を聞き、生態から流通まで幅広い知見を融合し、漁業振興を見据え、地域に根ざした研究を進めてほしいと願う。浜には研究するに値する材料が数多く転がっている。
平成25年3月
上田幸男
【著者紹介】
上田幸男(うえたゆきお)
1958年徳島県徳島市生まれ。
1984年三重大学大学院水産学研究科修士課程修了。
同年、徳島県水産試験場海洋科技師。2000年東京水産大学博士(水産学)取得。
03年(独)水産総合研究センター西海区水産研究所東シナ海漁業資源部底魚生態研究室長。
06年徳島県立農林水産総合技術支援センター水産研究所次長。
著書に、『アオリ
イカの生態と資源管理』(日本水産資源保護協会水産研究叢書)、
『新鮮イカ学』(分担執筆、東海大学出版会)。
海野徹也(うみのてつや)
1963年広島県呉市生まれ。
1990年広島大学生物圏科学研究科博士課程前期修了。
91年広島大学生物生産学部助手。96年広島大学博士(学術)取得。
99年北アリゾナ大学・生物科学部に学ぶ。同年,広島大学生物生産学部助教授。
2000年広島大学大学院生物圏科学研究科助教授。
現在,広島大学大学院生物圏科学研究科准教授。
著書に、『メジナ釣る?科学する?』(共編著,恒星社厚生閣)、
『クロダイの生物学とチヌの釣魚学』(成山堂書店)、
『アユの科学と釣り』(共編著,学報社)。
【読者からの声】
●M様
「釣り人の立場から、アオリイカの生態から知ることができ、とても参考になった(とてもうれしかった!)」
●N様
「すばらしいの一言です」